The Journey : Somewhere Down the Road - 200807

司法解剖に参加す



今日は以前からお引き回し願っていた法医学教室から連絡があり、司法解剖に参加することとなりました。
医局で待っていると警察の科学捜査班が来られて、死亡状況と、関連を調べたい事前事故について、調書やカルテと共に説明されました。

法医学解剖室に向かうとオペ着を着用。
使い捨ての上下にガウン、さらにビニルの前掛け。手はゴム手袋を二重にした上に布製手袋をはめ、アームカバーもつけ、足はゴム長靴に履き替えました。そして頭部はマスクにキャップ、メガネの無い人はゴーグルとフル装備。
司法解剖で解剖にあたるご遺体は死後一日二日程度の、固定されておらず血も抜かれていない生の死体。生体の手術と同じくらいに感染や汚染のリスクがあるわけで、運動着に白衣だけでもやれていた解剖実習とはわけが違うのは当然ということです。



ここで司法解剖について説明しておくと、その対象は大雑把にいうと病院で医師の管理下で死亡が確認される以外のケース、つまり変死体であり、死因がはっきりせず犯罪性が疑われる場合に警察の要請や遺族の承諾により執り行われます。
今回のケースでは交通事故後、入院中に施設内を移動中急死というケースで、法律上の要請から事故との因果関係の有無を明確にする狙いがあります。

司法解剖では推測される死因を視野に入れつつ、脳と臓器をとりあえずすべて取り出し検査します。
要所要所で先生が検査項目や所見を口述されると、解剖中ずっと立ち会われている警察の方がそれを所定の用紙やメモに書き取り、別の人が写真をとっていきます。



実際に解剖にあたってみて、やはり解剖実習とは外見も感触も相当に異なることを実感しました。
しかし構造が変わっているわけではないので、解剖実習で学ぶこともそれだけ生きてきます。
流れ出る血、生体とあまり変わらない感触、これらも最初こそ戸惑いを感じたもののすぐに慣れて、実習と同じ感覚で扱えるようになったし、むしろ固定されていない分刃の通りは良かったように思います。

しかし実習とは大きく違い、今回最後まで慣れることのなかったものがあります。
それは臭い。
それは言葉で形容できる範囲外の強烈さ、それこそ、思考回路がやられるほどのものがありました。
敢えて言うなら、語弊がありますが、生ゴミの臭いとドリアンの臭気がこれでもかというぐらい凝縮されたような…。これは腹部の消化器=胃や小腸、結腸部分で顕著で、小腸の腸間膜からの切り出しを行っていたときなんかリアルに意識が飛ぶ勢いで、さりげなく、しかし無理やりに、他の学生にバトンタッチしちゃいました。
さらに、身体全体で言えることとして、魚をさばいている時のような、血液の生臭さが常につきまとってきます。
この臭いの問題は今日使った部屋の設備がいかんせん旧式であることと夏の湿った暑さに大いに関係していると思われますが、もっと劣悪な環境で手術や解剖を行っていた先人の苦労がしのばれます。



話を戻し、解剖を進めていくと肺動脈にゼリー状の血栓を確認。
そして事故による損傷部位に関連のある末梢静脈にも血栓を確認。
見事に死因は解明されました。

何はともあれ今日の司法解剖を終えて、単にその医学的技術的なノウハウだけでなく、警察と法医学教室が連携して事件の究明にあたっているという生の現場に身を置けたということに充実感を感じると共に、改めて人の死について認識を新たにさせられる強烈な印象を覚えずにはいられません。




映画鑑賞メモ:「上海の伯爵夫人」「シルク」「アメリカン・グラフィティ」


「上海の伯爵夫人」
 THE WHITE COUNTESS


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上海事変前夜、各国租界が並存する激動の上海を舞台に、故郷を追われたロシア没落貴族の伯爵夫人と、家族を失った過去を持つ盲目の元外交官、そして謎に満ちた日本人紳士が出会い織り成すドラマ。
失われた日々を生きる哀愁、時代の奔流に洗われて輝く希望と情熱のロマンスが着飾ることなく描かれる正統的名画。まさに上海版「カサブランカ」。

物語の鍵となる人物を演じる真田宏之はすっかり世界的俳優の貫禄をそなえている。
世界のスクリーンで日本人が日本人をしっかり、かっこよく演じる時代がようやく来たのかと思うと、とても喜ばしい。

作中、主人公の隣人に、ユダヤ人迫害の横行するヨーロッパから逃れて貧しくも健気に働くユダヤ人一家がいるが、町を歩き浴びせられる差別主義者の心無い罵声について慰めの言葉をかけられると当たり前のように答える、
「私たちは過酷な旅を乗り越えてここにきました。過去の苦しみに比べたらあんなものなんでもありません。私たちはここにいるだけで幸せ者です。だから私も、私の子供たちも、何にも聞こえません。」
という言葉が心に残る。







「シルク」  SILK

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19世紀フランス、製糸工場経営者の娘と結婚した青年、工場の蚕に疫病が広まったのを機に、起死回生をかけて世界で最も美しい糸を吐く蚕を求めて、最愛の妻を残し遠く日本に旅立つ。
フランスと日本、過酷さと美しさが共存する旅の道程、そこに住まう人々の生き方の美。印象として、ただただ美しい映画だった。

この映画の主役の一人は、坂本龍一の音楽であるといってもいいだろう。というのも実は自分自身、映画よりも先にサウンドトラックを聴き、いたく感動を覚えたのがこの映画を観た何よりの動機だった。
シルクのように繊細で、遠く異国の地に降る雪の結晶のように静かに輝くが如き美しい音楽は、何よりもこの映画の真髄を物語るかのようだ。







「アメリカン・グラフィティ」 AMERICAN GRAFFITI

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古きよきアメリカの田舎町、アメリカ東部の都会の大学に合格した二人の青年と彼らの二人の友人を中心に、出発前夜の出来事をつづる。
これぞアメリカン・クラシックと呼べる、古典的でありながら時を越える普遍的な輝きを放つ青春群像劇。作品全体を通して流れる、往年の名曲を配したラジオの演出が終始とてもうまくドラマを引き立てている。
『ザ・青春』って感じ。

映画鑑賞メモ:「ナイト・ウォッチ」「デイ・ウォッチ」「プラネット・テラー」「ヒルズ・ハブ・アイズ」「ヒットマン」「ロスト・ハイウェイ」

「ナイト・ウォッチ」「デイ・ウォッチ」
NIGHT WATCH / DAY WATCH



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日常社会の裏で「光の者(デイ・ウォッチ)」と「闇の者(ナイト・ウォッチ)」が対立しつつ共存するという、独特の世界観を背景に繰り広げられる霊界系アドベンチャー。
鑑賞前に抱いていたホラーテイストの暗い印象とは裏腹に、それぞれに人間味あふれるキャラのドラマが中心であり、グロさやバイオレンスも適度に抑えられているので結構万人ウケするキャパシティを秘めていると思う。
映画としての時間的制約もあり、そのアニメ的な世界観や設定に突飛な印象もうけるが、そうしたものに抵抗の無い人なら楽しめる映画。

ロシア映画というところが良くも悪くも気になるところだが、この作品に関してはもはやハリウッドと比べても遜色ないクオリティに達しており、ロシア語やロシア的なローカル感といったものが一種のチャーミング・ポイントになっていて好印象である。(女優は無論ロシア美人である)





「プラネット・テラー」 
PLANET TERROR


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陰謀により放出された毒ガスにより町の人間がゾンビ化していくパニックのなかで繰り広げられるサバイバル・ホラー・アクション。
感想を一字で言うと、『笑』…である。
笑いとカッコよさ、笑いと怖さの境界をある意味極めちゃってる映画である。






「ヒルズ・ハブ・アイズ」 THE HILLS HAVE EYS


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大陸横断旅行をする一家の車が何ものかによってパンクさせられ、砂漠のど真ん中で立ち往生する。襲い来る異形の集団との決死の攻防を描くホラー。昔の映画のリメイクらしい。
言ってしまえばB級ホラーに過ぎないが、この類の映画には珍しく陰惨一辺倒ではなく、ランボーばりの爽快感すら覚える展開の小気味よさを評価したい。





「ヒットマン」 HITMAN

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闇の組織により遺伝子操作によりつくられ、幼い頃より殺人マシーンとして育て上げられた人造人間であり、現在は超一流暗殺者として世界ネットワークから依頼を受けるコードネーム47の活躍を描く、ゴルゴ13好きにはビビッとくる設定のアクション。
同名のTVゲームの映画化となるが、映画としても破綻せずになかなか良質のアクションをみせてくれる。しかしあのバーコード付禿げ頭丸出しで変装は無理がありすぎると思った。






「ロスト・ハイウェイ」 LOST HIGHWAY

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不気味で不可解で倒錯的な展開、それでいて根底には一貫して漂うどこか癖になってしまうような官能的な空気。これぞデビッド・リンチの映画。





映画鑑賞メモ:「アース」「コンタクト」「ドッグヴィル」「サイダーハウス・ルール」「フリーダム・ライターズ」「ソラリス」


「アース」
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「DEEP BLUE」に続くBBCによるドキュメンタリー映画。
今回は題名どおり地球全体の生命のドラマを追う。

生まれながらに持つその肉体と環境に何の不平不満も抱くことなく、ひたむきに生命のサイクルを紡いでいく動物たちの姿に癒され勇気付けられるのは現代社会に疲れきっている証拠なのだろうか。原始、生きていくこと、生きていることがただ純粋に目的であり喜びでありえた頃を想う懐古の情なのだろうか。





「コンタクト」 CONTACT

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宇宙人からの通信傍受に始まる出来事を通して、科学と信仰の境界、生きる意味、存在の意義といった根本的な問題に対峙する人間の葛藤を描く。とてもインスパイアリングな作品だった。

宇宙から見たとき、すべての人間はちっぽけで無力な存在にすぎないが、そんな小さな存在でありながら美しい夢や希望、信念を抱くとき、人間はかくも尊い。そんな人間存在の輝きを改めて感じさせてくれる映画。





「ドッグヴィル」 DOGVILLE

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全編ちょっとした演劇程度のチープな舞台装置のみで演出される異色の映画。
そこで淡々と繰り広げられる人間劇から、底なしの傲慢にまみれた人間の欺瞞的な「善」に深く鋭い疑問を投げかける。
娯楽性を意図的に排してまで人間の傲慢で醜い性を執拗にさらけ出す、まさに問題作。






「サイダーハウス・ルール」 THE CIDERHOUSE RULES


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孤児院で生まれ育った主人公。里親にもらわれないうちに青年になり、育ての親である孤児院長に医術を教えられ不本意ながら堕胎を手伝う日々をおくるが、ある日堕胎に来たカップルについて孤児院を出て、彼らの所有するリンゴ農園で働き収穫人たちの宿舎”サイダーハウス”に住むこととなる。
そんな彼の体験する数奇な人間ドラマを通して、人の役に立つということ、人に必要とされるということの価値や意義をしみじみと考えさせられる。
人生の時に残酷な一面をも優しくマイルドな作風に包み込まれ、見終えた後にちょっぴり優しい気持ちになれる、そんな映画。





「フリーダム・ライターズ」 FREEDOM WRITERS

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過酷な家庭環境や人種差別・対立の横行する社会環境にどっぷり浸かってきた不良クラスを団結させ、身を粉にして全人的に立派に育て上げた女性教師の実話を映画化。
もともとがすばらしい話なわけだけど映画としてもよくまとまっており、時に魂を揺さぶられるような感動を覚えた。
異人種・異文化が混交する社会ではどこでも見られるような問題や葛藤を描いているという点で、留学などで海外に行く方には是非観ておいてほしい映画。





「ソラリス」 SOLARIS

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海と雲に覆われた未知の惑星ソラリスの調査に行っていた友人から精神科医のもとに奇妙なビデオレターが送られる。要請されるままに宇宙ステーションにおもむく彼はこの世のものとは思えない体験をする。

静粛な孤独に包まれる宇宙を題材にした映画は多い。あらゆるものと隔絶した宇宙空間を漂う密室的な設定はそれだけで、そこで起きる出来事や人間関係の機微に敏感にさせる不安感や緊張感をじんわりとかもし出し、作品のテーマを強烈に浮き彫りにし得る可能性をもつ。この映画は特にそれに成功している印象を受ける。
この映画が浮き彫りにするものは「愛」、その不条理で恐ろしい本質、一度魅了されると全存在が渇望し、あるいは全存在を潤すその恵み。



初学期の終わり


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昨日今学期最終の試験がおわり、晴れて夏休みとなった。
思えばこの三ヶ月、新しい場所で、新しい人々と、新しい目標に向かって歩みだした、
何もかもが小ぜわしい変化の流れにのり、すっかり一年は経ったかのようにすら思える日々だった。
そんな甲斐もあってか学業のほうは、解剖の試験で学年一番であったりとなかなかうまくいっている。
しかしそんな日々においては状況への即物的な対応にすべてが終始し、ストレスのはけ口も即物的で刹那的なものに終始してそれを疑う余裕もなく、どうしても自分や世界を深く見つめる視野や余裕は失われてしまっていたのも事実。これからの一ヶ月あまりの期間、これまでの学業や試験勉強で大いに奮い立たせた集中力とモチベーションを温存しつつ、自分の土台を固め、今後の生活や人生のオリエンテーションに資することとしたい。

写真↑<なぎさドライブウェイ> 写真↓<大学近くの展望台>


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